実家を売る、ということ...
先月のお盆休み、実家のある田舎に帰省した。
この時期は帰省する人が多いため、同窓会が開かれる。
風情はあるが、どことなく田舎らしいお店に入ってみると、
小学校時代からの友人で『T君』が店の奥、隅にいた。
彼は昨年の秋から年末にかけて、ご両親を病気で相次ぎ亡くしている。
典型的な一人っ子タイプだったのが、20年前には実家を出て、
お見合い結婚を機に別の地域でマンションを購入して住んでいた。
私はどうしても、彼の実家の現状と行く末が気になっていた。
彼の実家の一戸建にはよく夜遊びに行って、寝泊りさせてもらった。
夜食は決まって、具材のない 『チャルメラらーめん』 だった...
ところが今年の春、早々と建物を解体して、既に更地になっていると言う。
そして、隣地の方から購入したいとの意思表示を受け、承諾している。
しかし、土地を売って200万円。
建物の解体費用が何と、170万円もして、支払っている。
そのような状況下で、思い出の地が見知らぬ人に渡ってしまう事に対し
少年時代の記憶の一部がもぎ取られてしまうような気持ちを初めて覚えた。
土地は所有権とはいえ、当然に永久的なものではない。
永遠なるものとは人間の記憶だけだからと、彼が言うのは果たして真実か。
田舎にある実家は、年齢を重ねてみると感慨が一層深くなっていく。
彼は昔から優柔不断なタイプだった故、実家を解体して売却するにはそれ
相応な決断を要したと思う。自分に置換えて考えた瞬間、一気に酒をあおった。
彼のご両親には色々とお世話になり、常に温かく迎え入れてくれた。
確かに、その優しい眼差しがつい昨日のことのようで、良く憶えている。
私が今の仕事に携わっている事についても当時、ご母堂が占い、
予見してくれたことは決して、忘れることもないだろう。
この場もお借りして、ご冥福をお祈りしたかった。
季節の移ろいは誠に早く、今日彼岸の入りとなった。