2016-01-26
トピックス
■ 百年の四季
『この家は建築後、百年経過しているのですよ...』
取引先の地権者様のご実家で打合せの際、一瞬の間合いの時に
突然そう告げられたから、驚いた。
確かに歴史を感じさせるお家だな、とは思っていたが、まさか百年の
経過と聞かされると、感嘆せざるを得ない。
仕事の話は脇に置き、暫し百年間のダイジェスト版と百年目の
大計ともいえるお話を神妙な面持ちで伺った。
この立春を過ぎたら、手作業による解体に着手して、建替えられるとの事だ。
しかし、普通の建替え計画ではない。
現存する柱及び梁などを手作業で慎重に取り除き、新築される住宅の
主要部分に改めて組み入れて、再活用される工法なのだ。
著名な宮大工さんのチームに依頼して、解体から完成まで、約2年間の
月日を待たれると言うのも、また相当な度量だ。
柱も梁も百年前の当時から、相当な材料の代物だから出来る術なの
かもしれない。
古い家屋を重機で取壊し、コンクリート系の新しい住宅を建てるという
従来の傾向に食傷気味な感を覚えていたから、新鮮な驚きになった。
百年の時を刻んだ屋内は静かに、ゆっくりと時間が流れているように
感じたのは、気のせいだけだったのだろうか...
主であるご夫妻に、屈託のない笑顔で見送られて玄関を出る。
改めて、広い前庭から堂々とお家を眺めさせていただいた。
百年の四季による風雪に耐えたお家は、空間と調和していて
何の主張もないように静かに佇んでいるかのように見えた。
その時、寒中の風が吹き、冷たい頬に風音が伝わった。
何を捨てて、何を残すべきなのか、そう問われたようにも聞こえた。