■ おじさんの春...
1本、携帯電話が鳴った。
同郷出身の悪友からで用件は薄々、承知していた。
『やっぱり、あいつが再婚するらしい』
『内々で、お披露目を兼ねたカラオケパーティーをやるから参加しないか』
再婚するという彼は同郷の同級生だった友達で、20代前半に
派手な挙式を行い、皆の先頭を切って結婚した。
そして、早々に男の子2人を儲けて都内で暮らしていたが、
15年位前には離婚していた。
その後は同じ場所で一人暮らしを続けていたが、昨年夏の同窓会の二次会で
一気に意気投合した同郷の未婚女性が現れた。
しばらく同棲していたようだから、再婚の噂が持ち上がっていた。
50代目前、おじさんの春で再出発、と言っても差し支えはないだろう。
当日の夜、指定された池袋の場所に行って、看板を見上げてみると
雑居ビルの中だった。 予想していたより、何やら古めかしい感じのビルだ。
室内に入った瞬間、お披露目の場としては余りにも薄暗く、飾り気のない
寒々しい感じの部屋だったので、少しばかり戸惑ってしまった。
当時、彼の結婚式が艶やかで、未だに記憶に残っていたが
今夜の池袋は余りにも対照的な雰囲気で、意外に感じた。
主役の彼は、そんなのお構いなしのようで、ニコニコ笑っている。
電話をくれた悪友は隣に座り、マイクを離さず飽きもせず歌いまくっている。
決して華やかとは言えない場所だったが、人生の最出発を図る彼に、
店舗の場所やお店の雰囲気などは全く関係なかったのかも知れない。
上述したような過程の中で、彼に嫉妬を感じていた時があった。
それが終始、気負いもなくて飾らぬ態度の二人だったから、
露のように消えて、夜の帳が下りた。