■憚りながら...
『御社取引先の、あの地権者の奥様がお亡くなりになった』と、言われた。
連絡をいただいたのは、その地権者のご主人ではない。
地権者と当社を繋いでくれた、都内の仲介会社の担当者からの電話だった。
もう6年も前の案件になるのだが、仲介会社を通じ、その地権者の遊休土地を
借受けさせていただき、当社がレンタル用のコンテナで運営している。
当時は対面契約の予定が、急きょ郵送等により持回りで行った。
その時から仲介会社の要請もあって、地権者とは直接的な接触は控えている。
よって、1度もお会いした事のない地権者の一人だった。
しかし、盆暮れの付届けだけは宅配便等で届けている。
すると、とても丁寧なお礼の葉書を必ず送ってくれる。
律儀で優しいお人柄が、その葉書から十分に窺えた。
私もつたなく、お礼の一筆箋だけは献上していた。
そのような方の、奥様のお通夜に参列する事になった。
予想以上に大きな斎場で、多数の関係者と大勢の参列者がいた。
お焼香を上げさせていただき、勧められるがまま、お清めの会場に移った。
上がってみて驚いた。
お清めの場には3人のご老人しかいないのだ。
あれだけ大勢の参列者がいながら、お清めの場にはそれらの姿が全くない。
お料理も飲み物も相当な数がテーブルに放置されたまま、乾きはじめていた。
その理由が全く分からぬまま、斎場を一人、寂しく後にした。
それから少しの日が経って、参列を呼びかけてくれた仲介会社の
担当者より電話があった。
『地権者のご主人より、お礼の伝言がありましたから』と言う。
そこで、お清めをしていた人の少なさの理由を聞いてみた。
『皆さん憚りがあったみたいで、そのまま帰られた方が多かったみたいです』
迂闊だったのは、むしろ私の方だったのだ。
お清めを憚るほどのお通夜であったとは...
いただいた葉書を手に取り、暫く呆然とした時間が過ぎ、また一夏が終わる