■ 遍路の訳は...
四国八十八カ所霊場の旅は歴史も古く、余りにも有名だ。
いつの日か、その旅に出てみたいと思いながら、時間は過ぎてしまう。
まずは、その旅について経験者からお話を伺っておきたい。
この場合、なるべくなら経験豊富な方の話が、何かと良いものだ。
しかしながら、中々そのような方に出会うことはなかったが、
機会とは機敏なのか、突然やって来るものだから不思議だ。
我々の既存取引オーナーではなかったが、ある土地を所有されていて
賃貸案件について思惑が一致しそうな段階に入った方だ。
相当な広さの自宅敷地で、結構な資産家の方だ。
現役の頃は金融畑が長く、不動産の知識も豊富で
舌鋒鋭い方だから、私などはダジタジになってしまう。
応接室に通されて、主要な話を終え、しばし雑談を重ねた。
次回訪問の日時を探ってみたら、10日間ほど四国へ行く予定が
入っている、と仰る。 そこで、何とはなしに....
『もしや、四国巡礼の旅にでも行かれるのでしょうか?』 と、尋ねたら
突然顔を向けられ、その通りだと言われたから、こちらも驚いた。
しかも、ここ数年は年に2度行かれる、相当な経験を有するお遍路さんだった。
その後、話題は一気に遍路の旅一色になった。
過去に行かれた何冊もある勧進帳を見せていただき、お遍路衣装や年季の入った
遍路用の杖まで登場して初めて盛り上がった。 いや、そのように見えた...
話が落ち着いた頃、思い切って尋ねてみたい事が浮かび上がっていた。
『しかしオーナーのような方が、このようにお遍路に行かれる訳は、
一体何でしょうか?』
さすがに瞬間、沈黙となり、場の空気が一気に重たくなった。
やはり、気まずい質問だったかなと、後悔してしまったが
暫く間を置いて、口を開かれて出てきた訳は、かなり意外なものだった....
何の不足もないように見えた方だったから、返す言葉が見つからなかった。
その後、甘くはなく、契約の機会は遠ざかったように見える。
それでも、尊敬の念を抱いてしまったから、何かの機敏で
遍路の話の続きが聞けるなら、それはそれでありがたいものだ。